日本一わかりやすい小論文講座

大学受験に役立つ小論文の書き方について解説します

第6回 「模倣から、新しい表現は生まれない」と言う意見に賛成か反対か(北海道教育大学の小論文過去問)

 今回は2018年の北海道教育大学で実際に出題された小論文についてやっていきます。

 

 小論文の問題は次のとおりです。

f:id:essayexplanation:20220120120413p:plain

 

 まずは設問の指示をきちんと確認しましょう。指示は以下の3点です。

○「模倣から、新しい表現は生まれない」と言う意見に賛成か反対か示す。

○理由を説明するにあたり自分の体験や具体例を述べる。

○1400字以上1600以内で記載する。

 

 次に今回のような意見対立型の問題の場合、賛成と反対それぞれについて理由や具体例を以下のように洗い出してみましょう。

f:id:essayexplanation:20220120120538p:plain

「模倣から、新しい表現は生まれない」という意見に賛成の理由としては「全く新しい表現は既存の表現を完全に否定することから生まれることが多いため」という点が挙げられます。一方、反対の理由としては「新しい表現は既存の表現を組み合わせ、進化させることで生まれることが多いため」という点が挙げられます。

 

 次に具体例について説明します。まず、賛成の具体例として「19世紀後半にフランスで生まれた印象派の絵画はこれまでの写実的な絵画を完全に否定することで生まれた。」「20世紀にフランスで活躍したフワンソワ・ポンポンは彫刻からリアリズムを廃し、シンプルなデザインを確立した。」の2点を挙げました。

 

 次に反対の具体例として「日本の代表的な芸術家である岡本太郎縄文土器を参考にして自分の作品を作成した。」「ゲルニカなどの傑作を残したピカソセザンヌの画風をベースに自分のスタイルを作り上げた。」を挙げました。そして、最後は私自身の体験ですが「中学生時代に絵画コンクールで過去の受賞作品のいい点を参考にして描いたら入賞できた。」という点を挙げておきます。

 

 賛成と反対それぞれに対する自分の体験及び具体例を比べてみると反対の方が書ける内容が多そうです。今回は1400字以上も書かないとならないため、反対の方で書いていきましょう。

 

 実際に書き始める前に、具体例で示した美術について簡単に背景を説明しておきます。まずは19世紀後半にフランスで生まれた印象派の絵画についてです。

f:id:essayexplanation:20220120120820p:plain

 それまでヨーロッパでは人物や風景を忠実に再現した写実型の絵画が主流でした。ドラクロワが描いた「大衆を導く自由の女神」がその典型例です。しかし、クロードモネやその仲間は一般市民の日常生活や街の風景を独特のタッチと色彩で印象的に描く作品を世に出し、それらの作品が印象派と呼ばれるようになりました。印象派の作品はこれまでの写実的な作品とは大きく異なり、初めは批判を浴びましたが、次第に受け入れられることとなりました。

 

 ちなみに印象派の画家の多くは日本の浮世絵に強いインスピレーションを受けており、多くの印象派の作品には浮世絵の色使いが参考とされています。

 

 次は彫刻についてです。

f:id:essayexplanation:20220120120935p:plain

 オーギュスト・ロダンの「考える人」の彫刻はとても有名ですね。このロダンの弟子にフワンソワ・ポンポンという人がいました。彼は色々と試行錯誤した結果、師匠の作品とは真逆とも言えるシンプルな形状のシロクマと呼ばれる作品を作りました。この作品は現在流行しているくまモンなどのマスコットキャラクターの先駆けです。

 

 次は「芸術は爆発だ」で有名な岡本太郎です。

f:id:essayexplanation:20220120121020p:plain

 岡本太郎の作品で一番有名なのは大阪万博のランドマークである「太陽の塔」です。岡本太郎縄文土器を見たときに強く感激し、縄文人の持っていた激しいパッションを参考にして芸術作品を作成したと言われています。太陽の塔縄文土器と雰囲気が似ているのもそのためです。

 

 最後はキュビズムについてです。

f:id:essayexplanation:20220120121957p:plain

 キュビズムとは20世紀初めに、パブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって生み出された、新たな美術表現の試みのことです。一つの対象を固定した単一の視点で描くのではなく、複数の視点から見たイメージを一枚の絵の中に集約し表現しようとしました。ピカソゲルニカはまさにキュビズムの集大成とも言える作品です。

 実はピカソには師匠と仰ぐ人がいました。それは後期印象派セザンヌです。まさにセザンヌは、複数の視点での美術的表現を探求し、1つの対象でもわずかに異なる表現を同時に鑑賞者に味わわせる表現方法で絵画を描いた最初の人物でした。セザンヌの美術思想は、そのままのちにキュビスムに受け継がれました。セザンヌが描いた「リンゴとオレンジ」はまさに複数の視点から見た果物を描いています。

 

 それでは実際に小論文を書く前に、今回のような意見対立型の問題を回答する際のポイントを説明します。

f:id:essayexplanation:20220120122100p:plain

 1点目としては、書き始めは上記の様式を参考に書くのが望ましいです。2点目としては、意見(賛成/反対)、理由、理由を支持する根拠の順序で書くことです。3点目としては、反対意見への反論があると非常に望ましいです。特に今回のように字数制限が多い場合には字数を稼ぐ上でもとても有効です。4点目としては、最後に自分の主張(賛成/反対)を述べて文章を締めくくりましょう。

 

 それでは合格答案を見ていきましょう。

合格答案

 私は模倣から新しい表現は生まれないという考えには反対である。なぜならば新しい表現は過去の既存の表現の一部を模倣したり、組み合わせることで生まれる事例が数多く存在するからである。

 過去の既存の表現を一部模倣することで新しい表現を生み出した1点目の事例として、日本の有名な芸術家である岡本太郎が挙げられる。彼は非常に強い個性を持ち、徹底的にオリジナリティを追求して芸術活動を行っていた。そんな彼であっても、縄文時代に作られた縄文土器に激しいインスピレーションを受けて、自分の作品を作る際に積極的に参考にした。1970年代に大阪で開催された万国博覧会のシンボルとして、彼は太陽の塔を作成したが、その際、日本人に対して縄文時代の熱い魂を呼び戻すことを狙って作品を作成したと言われている。まさに岡本太郎は太古の文化を進化させることで新しい表現を生み出したと言えるであろう。

 2点目の事例としては、パブロ・ピカソが挙げられる。パブロ・ピカソは20世紀最大の芸術家と呼ばれており、様々な作品を世に残した。彼は、一つの対象を固定した単一の視点で描くのではなく、複数の視点から見たイメージを、一枚の絵の中に集約し表現するキュビズムと呼ばれる美術表現を確立した。そして、このキュビズムは絵画のみならず建築、文学など様々な分野において多大なる影響を及ぼすことになった。このようにピカソは新しい表現を作ることに成功したが、実は彼は後期印象派の画家であるセザンヌから大きな影響を受けており、実際にピカソは「セザンヌが唯一の師」だと語っていた。セザンヌは複数の視点から見た物の形を1つの絵画で表しており、この技法こそがピカソが自分の作風を確立する基礎となった。この点からも世界を大きく変えるような新しい表現であっても、既存の表現がその基礎となっている事例が存在するのである。

 既存の表現を複数組み合わせて新しい作品を作った事例としては、中学時代の私自身の経験が挙げられる。私は中学3年生の時に絵画コンクールに応募することになった。最初、コンクールで受賞されるために、他の人とは違うオリジナリティのある作品を作成しようと試行錯誤したものの、結局、自分が満足できる作品が作れずに困っていた。そこで考えを大きく変えて、これまでコンクールで優秀賞を受賞した作品を全て鑑賞し、作品の特徴を徹底的に調べ上げて、素晴らしいと思った技法や色使いを取り入れる形で作品を作成した。その結果、コンクールでは佳作に選ばれることとなった。この経験を通じて、新しい表現は必ずしも全くのゼロから作る必要はなく、既存の表現を自分なりに組み合わせることで作ることができることを学ぶことができた。

 模倣から新しい表現は生まれない事例として19世紀後半にフランスで起こった印象派運動を挙げる人がいるかもしれない。それまでフランスでは写実性の高い絵画が高く評価されていた。それに対して、クロード・モネなどは輪郭が曖昧で色使いが独特である印象派の作品を世に出した。確かに印象派の作品はこれまでのフランスで人気のあった写実的な絵画とは一切異なっていた。しかしながら、一方で印象派の画家たちは同時期に日本で流行していた歌川広重葛飾北斎などが描いた浮世絵から強いインスプレーションを受けており、淡い色使いなどを積極的に自分たちの作品に取り入れたと言われている。このように一見、既存の作品から大きくかけ離れている新しい作品においても、実は別の分野の作品を多いに参考にしていることが見受けられるのである。

 以上の理由から、私は模倣から新しい表現は生まれないという考えには反対である。実際のところ、多くの新しい表現は既存の表現の一部模倣や組合せを通じて作られているのである。

 

 この合格答案では、模倣から新しい表現は生まれないという意見に反対を示した上で、岡本太郎ピカソの例を出すととも、自分自身の体験談を紹介し、過去のものから新しい表現が生まれることを示しています。更に、自分の意見とは反対の意見に対して、印象派と浮世絵との関係を示すことで効果的に反論しています。

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。

 

 最後になりますが、このブログの内容は以下のYoutubeでも解説しています。もしよければご視聴ください。また、Youtubeにアップしている動画スライドについても参考までに添付しておきます。

www.youtube.com

 

 これからも皆様の小論文スキルが向上することを目指して、これからも情報発信を続けますので、引き続きよろしくお願いいたします。

drive.google.com