日本一わかりやすい小論文講座

大学受験に役立つ小論文の書き方について解説します

第10回 経済産業省報告書「不安な個人、立ちすくむ国家 〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」に対する自分の意見を提示(九州大学の小論文過去問)

 今回は2018年九州大学共創学部前期の小論文をやっていきます。これからの生き方について考えさせられるとても面白い問題なので、是非読んでみてください。

 

設問

 資料のスライド(1)~(8)は、経済産業省次官・若手プロジェクトの報告書「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(2017年5月)からの抜粋である。これを読んで、以下の問いに答えなさい。

 

問1

 このプロジェクトチームは、日本社会のあり方及びそれに対する日本政府の関与の仕方に問題意識を持っている。「昭和」の時代と比較した時に、チームは現在、どのような問題が深まっていると認識しているのか。スライド全体を読み取り、彼らの問題意識を推測し、それをあなたの言葉でまとめなさい。論述を補強するため、文章と合わせて概念図や表を付記してもよい。

 

問2

 ひとりひとりの構成員がより充実した生活を送ることができ、また持続的でもある社会を実現するために、あなた自身はどのような貢献ができるのか。自分の知識や経験を踏まえながら、自由かつ論理的に議論を展開しなさい。論述を補強するため、スライドのデータを用いたり、文章と合わせて概念図や表を付記してもよい。

 

(設問1資料)

スライド(1)

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スライド(2)

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スライド(3)

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スライド(4)

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スライド(5)

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スライド(6)

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スライド(7):各国の若者に対する意識調査

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スライド(8)

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 それでは、まず問1の指示を以下の通り整理しましょう。

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 まず、最初に、チームは現在、どのような問題が深まっていると認識しているのか、スライド全体を読み取り、彼らの問題意識を推測する必要があります。その上で推測した内容を自分の言葉でまとめることが求められています。なお、論述を補強するため、文章と合わせて概念図や表を描いてもいいと言われています。

 

 それではスライド(1)〜(9)について読み取れる内容を確認していきます。なお、小論文でグラフが出てきた場合、必ず全てのグラフに言及する必要があります。1点でも言及しないものがあると減点になりますのでこの点は注意してください。

 

 まず、スライド(1)についてです。

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  このスライドからは「社会の変化が早すぎて人や国家がそれにそれに追いついていない状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(2)です。

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 このスライドからは「昭和で一般的であった生き方が崩れ、人々のライフスタイルが多様化している状況」が読み取れます。

 

 次はスライド(3)です。

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 このスライドからは「高所得者から低所得者所得の再分配がされているものの、高齢者世帯への分配が強く、母子世帯などに十分な分配がされていない状況」が読み取れます。

 

 次はスライド(4)です。

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 このスライドからは「親の年収と子供の学歴及び労働形態には強い相関関係があり、高所得者の子供は高所得者低所得者の子供は低所得者といった格差の固定化が起きている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(5)です。

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 このスライドからは「日本では健康寿命が伸びており、高齢者でも昔に比べて健康に過ごせている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(6)です。

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 このスライドからは「多くの高齢者が働く意欲を持っている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(7)の若者に対する意識調査結果です。

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 このスライドからは「日本の若者は他国に比べて国への貢献に対して強い関心を示しているものの、国の政策決定に関与できていないと考える傾向にある」ことがわかります。

 

 次にスライド(8)です。

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 このスライドからは「日本人は経済的に豊かになっているが生活への満足度は上がっていない状況」がわかります。

 

 9つのグラフから読み取れる内容を順序を変えて整理すると以下の通りになります。

 

○昭和で一般的であった生き方が崩れ、人々のライフスタイルが多様化している(2)

○社会の変化が早すぎて人や国家がそれにそれに追いついていない(1)

○格差の固定化が起きている(4)

所得の再分配は高齢者世帯への分配が強く、母子世帯などに十分な分配がされていない(3)

○日本では健康寿命が伸びており、高齢者でも昔に比べて健康に過ごせている(5)

○多くの高齢者が働く意欲を持っている(6)

○日本の若者は国への貢献に対して強い関心を示しているものの、国の政策決定に関与できていないと考える傾向にある(7)

○日本人は経済的に豊かになっているが生活への満足度は上がっていない状況にある(8)

 

 上記が経産省若手の問題意識です。これを自分の言葉でわかりやすくつなげてまとめると問1の回答は以下の通りとなります。

 

問1の合格答案

 日本では昭和時代に当たり前であった終身雇用、専業主婦、定年退職などがもはや一般的ではなくなり、ライフスタイルの多様化が進んでいる。しなしながら、このような社会の変化に国家の制度が追いついていない。例えば、格差の固定化が進んでいるにもかかわらず、所得の低い母子世帯などに十分な所得の再分配がなされていない。一方で、日本の高齢者は健康寿命が伸びており、更には働く意欲を持っているにもかかわらず、彼らに大きく所得を再分配することで彼らの勤労意欲を阻害している。若者については、国に貢献したいと考えているものの、国の政策決定に関与ができていないと考えている。このような状況により、日本は経済的には豊かになっているにもかかわらず、幸福度が高まっていない。

 

 次に問2についてやっていきましょう。まずは問2の指示を以下の通り整理しましょう。

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 回答の書き方としては、まず、①ひとりひとりの構成員がより充実した生活を送ることができ、また持続的でもある社会について簡単に述べてください。その後、②その社会を実現するために自分が貢献できることを重点的に書く必要があります。なお、②を書く際に自分の知識や経験に言及し、必要があれば概念図や表を描くようにしてください。それでは問2の合格答案は以下の通りです。

 

問2の合格答案

 これからの日本社会では年齢や性別などに限らず勤労意識の高い人がいつまでも意欲的に生き生きと働き続けることができ、若者が社会へ積極的に貢献していくことが理想的である。更には、母子家庭などの本当に生活が苦しい人へ所得の再分配が適切になされるとともに、地域の人々がそのような人を自発的に支援することを通じて、格差の固定化を防ぎ、人々がお互いに高い幸福感を持って生きていける社会を実現していくべきである。

 このような社会を実現するにあたり、私は自分の住む地域へのゴミ拾いのボランティア活動を今後も積極的に続けていきたいと考えている。若者による日本社会への貢献は何も選挙への投票を通じてのみならず、地域への積極的な支援を通じても達成することはできる。私は高校生の頃、地元の街のゴミを拾うボランティア活動に度々参加した。自分がゴミを拾うことにより街がきれいになり、地元の人たちに感謝されることに大きな喜びを感じたことを今でも鮮明に覚えている。自分を含めて多くの若者が自分の住む街に対して積極的に貢献活動を行うようになれば、地元の人々の幸福度が高まり、更には若者も自分たちが社会へ貢献できているという実感を持てるだろう。

 更に、私は大学入学後にこれまでの勉強経験を生かして地域の母子家庭への勉強支援を無償で行いたい。そして、卒業後には週末の募金活動への参加や定期的な募金を通じて母子家庭への支援を続けていきたいと考えている。これからは常に自分が地域にどのような貢献ができるかを考えて、必要だと思う活動を継続的に実施していきたい。

 昭和時代は政府や会社が人々をサポートする役割を果たしており、人々は自分の勉強や仕事や家庭のみに専念してきた。しかしながら、これからの時代には政府、会社のみならず、人々がより自発的にお互いを支え合っていくことが必要であろう。まさに、各地域において、多くの人々がそのような利他的な行動を積極的に取るようになって初めて経済産業省の若手プロジェクトが考えるような理想的な社会が完全に実現されると思われる。

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。