日本一わかりやすい小論文講座

大学受験に役立つ小論文の書き方について解説します

第12回 人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか(埼玉大学の小論文過去問)

 今回は2021年の埼玉大学教育学部前期の小論文をやっていきます。宗教に関する問題なので日本史や世界史の勉強をしている学生は是非とも読んでみてください。

 

設問

 宗教は人類社会に様々な影響を与えてきた。人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか、社会科(地理歴史科、公民科を含む)で学んだことと関連づけて、具体的な事例を挙げて1200字以内で述べなさい。なお、事例として挙げる事柄は、過去のことでも現在のことでもよく、また日本国内のことでも海外のことでもよい。

 

 それではまず設問の指示を以下の通り整理しましょう。小論文では設問の指示をきちんと踏まえることが最重要です。設問をしっかりと読み込む習慣をつけましょう。

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 まず、最初の指示として、人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか述べてください。そして、自分の考えを述べる際には日本史、世界史、地理、公民などの社会科で学んだことと関連づけて述べる必要があります。なお、事例は過去でも現在でも国内でも海外でも問題ありません。最後に文字制限が1200字以内なので9割(1080字)以上、10割(1200字)以下で記載することが望ましいです。

 

 それでは、宗教が人類に及ぼす影響や効果について下図のように整理してみましょう。

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 宗教に限らず、ほとんどの事象にはプラスの面とマイナスの面があります。したがって、小論文を書く際には、物事を多面的に考えて述べる習慣を身につけると高得点を取得しやすくなります。

 まず、宗教が人類に及ぼすプラス面としては、特に社会が不安定な時期に人々の不安を和らげる効果があります。皆さんも受験の前に神社へ合格祈願すると思いますが、基本的にはそれと同じです。

 もう一つのプラス面としては、人々の倫理観を高めて地域コミュニティを平和に保つ作用もあります。具体的な例として、キリスト教では「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という教えがあり、多くの米国人はその考えに則り、近所の人々を積極的に支えるとともに、地域ボランティアへ頻繁に参加します。そのような人々の行動を通じて米国の多くの地域は快適に保たれています。

 一方、マイナス面としては、過激な思想を持つ人々が1つの宗教の下に集まり、テロ活動などを行うことで社会の安全を脅かす危険があります。これは1990年代に日本でオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件や現在でも世界各地で起きているイスラム過激派による爆弾テロなどが挙げられます。

 もう一つのマイナス面としては、異なる宗教や宗派を信じる集団間で争いが起きやすくなる効果が挙げられます。例えばインドとパキスタンは度々領土紛争を起こしてきましたが、その理由の1つとして宗教間の対立が挙げられます(インドはヒンドゥー教パキスタンイスラム教が主流)。また、中央アフリカではキリスト教信者とイスラム教信者が一緒に住んでいる国が数多く存在しますが、それらの地域では信者間での大規模な内紛が度々発生しています。

 

 それでは、小論文を書く材料は揃いましたので、実際に書く前に、今回の小論文を書く際のポイント(下図参照)を確認しておきましょう。

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 今回は、最初の段落で宗教は人類に対してプラスに働く面とマイナスに働く面があることを簡潔に述べるといいでしょう。その後、プラスに働く面とその具体例、マイナスに働く面とその具体例の順序で書くとわかりやすいと思います。なお、文字数は1080字以上1200字以内に上手く収めましょう。

 それでは合格答案です。

 

合格答案

 私は、宗教は人類に対してプラスに働く面ととマイナスに働く面の両面を併せ持っていると考える。

 まず、プラスに働く面として、宗教は特に社会が不安定な時期に人々の不安を和らげて安心させる効果がある。鎌倉時代初期、貴族による支配体制が崩壊し、代わりに武士による支配体制が進む中、多くの人々が先の見えない状況に大きな不安を感じていた。そのような状況において、善人でも悪人でも念仏さえ唱えていれば浄土に行けると説く浄土真宗は多くの人々の不安を解消させることを通じて、急速な勢いで日本中に広まった。このように宗教とは人々の精神を安らかにさせる効果がある。

 更に、プラスに働く面として、人々の倫理観を高め、地域コミュニティを快適に保つ効果もある。キリスト教には「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という教えがある。米国に住む多くのキリスト教信者はその教えに従い、近所の人々を積極的に支援する。例えば、米国では、近所の人が親が外出している間、子供を代わりに見てあげることや、1人で満足に動けない高齢者を車で病院まで送ってあげることがごくごく当たり前に行われている。更に米国人は地域のボランティア活動への参加や貧しい人への寄付を積極的に行う。このように宗教は人々の支え合い精神を育み、地域コミュニティを快適なものに保つ効果がある。

 しかしながら、時に宗教は人類に対してマイナスの影響も及ぼす。例えば、過激な思想を持つ人々が一つの宗教の下に集まってテロ活動を起こし、社会を不安定にさせることがしばしば起きる。1990年代、日本ではオウム真理教が東京の地下鉄に猛毒のサリンを撒き、多くの人々の命を奪った。海外でも、イスラム教のテロ組織が人々が多く集まる場所で自爆テロを行い、多くの命を奪う事件がいまだに発生している。このように宗教は時として一部の人々を暴走させる副作用を併せ持つ。

 更に、マイナス面として、異なる宗教や宗派を信じ合う集団間での対立を招くことが挙げられる。具体例として、中世、ヨーロッパではキリスト教の聖地エルサレムを奪還するという大義のもと、多くのキリスト教信者が中東へ遠征し、現地のイスラム教信者を殺害した。また、ヨーロッパ内においてもキリスト教カトリック支持者とプロテスタント支持者が対立してユグノー戦争を引き起こした。また、現在においても、インドとパキスタンカシミール地方を巡り長年、対立を続けているが、その根底としてインドでは主にヒンドゥー教パキスタンでは主にイスラム教が信じられており、宗教間の対立があると言われている。更に、中央アフリカではキリスト教信者とイスラム教信者が共存して住む国家が多数存在しているが、それらの地域で度々、キリスト教信者とイスラム教信者間の紛争が発生している。このように、宗教は思想の対立を原因として人々の間で争いを引き起こす副作用がある。

 以上のように、宗教とは人類に対してプラスに働く面とマイナスに働く面が存在する。そのため、人類はその両方の面を理解した上で宗教と付き合っていくことが重要である。 (1192文字)

 

 みなさん、どうでしたでしょうか。今回は宗教に対する一般教養がないと、なかなか書くのが難しかったと思います。ただし、日頃から勉強を通じて知識を習得するとともに、正しい回答方法に基づき小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。