日本一わかりやすい小論文講座

大学受験に役立つ小論文の書き方について解説します

第13回 基軸通貨であるドルと強いアメリカとの関係について(慶應義塾大学経済学部の小論文過去問)

 今回は2021年の慶應義塾大学経済学部前期の小論文をやっていきます。国際通貨のシステムについて理解が大変深まりますので、経済に興味のある人はぜひ読んでいってください。

 

[課題文]

 二十五年ぶりにローマを訪れました。そこで気づいたことが二つほどあります。一つはアメリカの存在の小ささ、もう一つはアメリカの存在の大きさです。

 ローマの町は観光客であふれています。耳を澄ますと、ドイツ語、日本語、中国語、フランス語、韓国語、英語 ー ありとあらゆる国の言葉が聞こえてきます。四半世紀前にはどこに行っても英語しか聞こえなかったのに、何という様変わりでしょう。

 ところが一歩、観光客相手の店に入るとどうでしょう。そこはアメリカが支配する世界です。どの国の観光客もなまりのある英語で店員と交渉します。代金支払いもドルの小切手やアメリカのクレジットカードで済ませています。

 かくも存在の小さくなったアメリカがなぜかくも存在を大きくしているのか。これはローマの町を歩く一人のアジア人の頭によぎった疑問ではないはずです。現代の世界について少しでも考えたことのある人間なら、だれもが抱く疑問であるはずです。

 アメリカの存在の大きさ ー それはアメリカの貨幣であるドル、アメリカの言語である英語がそれぞれ基軸通貨、基軸言語として使われていることにほかなりません。

 

 では、基軸通過、そして基軸言語とはなんでしょうか。単に世界の多くの人々がアメリカ製品をドルで買ってもドルは基軸通貨ではなく、アメリカ人と英語で話しても英語は基軸言語ではありません。

 ドルが基軸通貨であるとは、日本人がイタリアでドルを使って買い物をし、チェコの商社とインドの商社がドル立てで取引をすることなのです。英語が基軸言語であるとは、日本人がイタリア人と英語で会話し、台湾の学者とチリの学者が英語で共同論文を書くことなのです。アメリカの貨幣と言語でしかないドルと英語が、アメリカを介在せずに世界中で流通しているということなのです。ローマの町で私が見いだしたのは、まさに非対称的な構造を持つ世界の縮図だったのです。一方には、自国の貨幣と言語が他の全ての国々で使われる唯一の基軸国アメリカがあり、他方には、そのアメリカの貨幣と言語を媒介として互いに交渉せざるをえない他の全ての非基軸国があるのです。

 もちろん、これは極端な図式です。現実には、非基軸国同士の直接的な接触も盛んですし、地域地域に小基軸国もありますし、欧州連合EU)や東南アジア諸国連合ASEAN)のような地域共同体への動きもあります。だが、認識の第一歩は図式化にあります。

 ソ連が崩壊したとき、冷戦時代の思考を引きずっていた人々は、世界が覇権国アメリカによって一元的に支配される図を大まじめに描いてました。だが、私が今見いだした基軸国と非基軸国の関係は、支配と非支配の関係として理解すべきではありません。

 確かに、ドルが基軸通貨となるきっかけは、かつてのアメリカ経済の圧倒的な強さにあります。だが、今、世界中の人々がドルを持っているのは、必ずしもアメリカ製品を買うためではありません。それは世界中の人々がそのドルを貨幣として受け入れるからであり、その世界中の人がドルを受け入れるのは、やはり世界中の人がドルを受け入れるからにすぎないのです。

 ここに働いているのは、貨幣が貨幣であるのは、それが貨幣として使われているからであるという貨幣の自己循環論法です。そして、この自己循環論法によって、アメリカ経済の地盤沈下にもかかわらず全世界でアメリカのドルが使われているのです。小さなアメリカと大きなアメリカとが共存しているのです。

 

 さて、基軸通貨であることには大きな利益が伴います。例えば日本の円が海外に持ち出されたとしても、それはいつかまた日本製品の購入のために戻ってきます。非基軸通貨国は自国の生産に見合った額の貨幣しか流通させることができないからです。

 ところがアメリカ政府の発行するドル札やアメリカの銀行の創造するドル預金の一部は、日本からイタリア、イタリアからドイツ、ドイツから台湾へ、と回遊しつづけ、アメリカには戻ってきません。アメリカは自国の生産に見合う以上のドルを流通させることができるのです。もちろん、アメリカはその分だけ他国の製品を余分に購買できますから、これは本当の丸儲けです。この丸儲けのことを、経済学ではシニョレッジ(君主特権)と呼んでいます。

 特権は乱用と背中合わせです。基軸通貨国は大いなる誘惑にさらされているのです。基軸通貨を過剰に発行する誘惑です。何しろドルを発行すればするほど儲かるのですから、これほど大きな誘惑はありません。だが、この誘惑に負けると大変です。それが引き起こす世界経済のインフレは基軸通貨の価値に対する信用を失墜させ、その行き着く先は世界貿易の混乱による大恐慌です。

 それゆえ次のことが言えます。基軸通貨国は普通の資本主義国として振る舞ってはならないと。基軸通貨国が基軸通貨国であるかぎり、その行動には全世界的な責任が課せられるのです。たとえ自国の貨幣であろうとも、基軸通貨は世界全体の利益を考慮して発行されねばならないのです。

 皮肉なことに、冷戦時代のアメリカは資本主義陣営の盟主として、ある種の自己規律を持って行動していました。だが、冷戦末期から、かつての盟友であった欧州や東アジアとの競争が激化し始めると、アメリカは内向きの姿勢を強めるようになりました。

 近年には自国の貿易赤字改善の方策として、ドル価値の意図的な引き下げを試み始めています。とくに純債務国に転落した一九八六年以降、その負担を軽減しうる切り下げの誘惑はますます強まっているはずです。

 基軸通貨国のアメリカが単なる一資本主義国として振る舞いつつあるのです。大きなアメリカと小さなアメリカとの間の対立 ー これが二十一世紀に向かう世界経済が抱える最大の難問の一つです。

 この難問にどう対処すればよいのでしょうか。理想論で済むならば、全世界的に管理される世界貨幣への移行を唱えておくだけでよいでしょう。だが、貨幣は生き物です。ドルは上からの強制によって流通しているわけではないのです。人工的な世界貨幣の導入の試みは、エスペラント語の普及と同様、ことごとく失敗してきました。

 世界は非対称的な構造を持っているのです。その構造の中で、基軸国と非基軸国とが運命共同体をなしていることを私たちは認識しなければなりません。

 当然のことながら、基軸国であるアメリカは基軸国としての責任を自覚した行動を取るべきです。だがより重要なのは、非基軸国でしかない日本のような国も自国のことだけを考えてはいられないことです。非基軸国は非基軸国として、基軸国アメリカが普通の国として行動しないよう、常に監視し、助言し、協力する共同責任を負っているのです。

 私たちは従来、国際関係を支配の関係か対等の関係か、という二者択一で考えてきましたが、冷戦後の世界に求められているのは、まさにそのいずれでもない非対称な国際協調関係なのです。それはだれの支配欲もだれの対等意識も満足させないものです。だが、世界経済の歴史の中で一つの基軸通貨体制の崩壊は決まって世界危機をもたらしたことを思い起こせば、この非対称的な国際協調関係に賭けられた二十一世紀の賭け金は大変に大きなものであるはずです。

 さて次は基軸言語としての英語について語らねばなりません。だがここでは、今まで貨幣について述べたことは言語についても言えるはずだ、と述べるだけにとどめておきます。それについて詳しく論じるには、今よりはるかに大きな紙幅を必要とするからです。なにしろ歴史によれば、一つの基軸通貨体制の寿命はせいぜい百年、二百年であったのに対し、あのラテン語ローマ帝国滅亡の後、千年にも渡って欧州の基軸言語としての地位を保っていたのですから。

岩井克人「二十一世紀の資本主義論」筑摩書房、2000年より抜粋)

 

[設問]

A .筆者が25年ぶりにローマを訪れた際に気づいた「大きなアメリカ」を成立させている条件のなかで、通貨が果たしている役割を課題文に則して200字以内で説明しなさい。

 

B .課題文は1997年に書かれたものであるが、その指摘は現在も生きていると思われる。一方、課題文で述べられている、支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある事例は、ドルや英語における国家や個人の例に限らず、他にも存在すると考えられる。あなたが今後も続くと考える、支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある具体例を挙げ、そこでの両者の責任についてあなたの意見を400字以内で書きなさい。

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 それでは、まずAからやっていきましょう。「大きなアメリカ」を成立させている条件のなかで、通貨が果たしている役割を200字以内で説明する要約問題です。要約問題の場合、本文の中からポイントとなる文章をピックアップして、それを自分の言葉でつなげる必要があります。なお、具体例などは要約には含めてはいけません。それでは以下の通り、課題文から順番にピックアップしていきましょう。

 

アメリカの貨幣と言語でしかないドルと英語が、アメリカを介在せずに世界中で流通しているということなのです。

 

○ドルが基軸通貨となるきっかけは、かつてのアメリカ経済の圧倒的な強さにあります。だが、今、世界中の人々がドルを持っているのは、必ずしもアメリカ製品を買うためではありません。それは世界中の人々がそのドルを貨幣として受け入れるからであり、その世界中の人がドルを受け入れるのは、やはり世界中の人がドルを受け入れるからにすぎないのです。

 

○ここに働いているのは、貨幣が貨幣であるのは、それが貨幣として使われているからであるという貨幣の自己循環論法です。そして、この自己循環論法によって、アメリカ経済の地盤沈下にもかかわらず全世界でアメリカのドルが使われているのです。小さなアメリカと大きなアメリカとが共存しているのです。

 

基軸通貨であることには大きな利益が伴います。

 

アメリカは自国の生産に見合う以上のドルを流通させることができるのです。もちろん、アメリカはその分だけ他国の製品を余分に購買できますから、これは本当の丸儲けです。

 

以上5点を表現や順序を変えてつなげるとAの回答となります。模範解答は以下の通りです。

 

Aの合格答案

 かつてアメリカ経済が圧倒的に強かったため、ドルが基軸通貨となり、そのため世界中の人々がドルを貨幣として受け入れる。この自己循環論法で現在でもドルが世界で使われ続けており、ドルが基軸通貨として大きなアメリカを成立させている。さらにドルが基軸通貨であるため、アメリカは自国の生産に見合う以上のドルを世界で流通させることができ、その分だけ他国の製品を余分に購入することができる。結果、ドルは大きな利益をアメリカにもたらしている。    (199字)

 

 次にBをやっていきましょう。支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある事例は色々とありますが、現在ではFacebookTwitterなどのSNSとユーザーとの関係が挙げられるでしょう。SNS会社はユーザーを支配していませんが、過激なフェイクニュースを放置して社会を混乱させて不安定化させる可能性があります。この問題に対してはSNS会社、ユーザーが共に適切な対応を取る必要があるでしょう。それでは以下がBの模範解答です。

 

Bの合格答案

 支配関係は存在しないものの、非対称的な関係にある事例としてはFacebookTwitterなどのSNS会社とユーザーとの関係が挙げられる。ユーザーは自発的に自分が使いたいSNSを使用しており、SNS会社に従属してはいない。しかし、彼らはSNSによって日常生活で収集する情報の大部分をコントロールされており、そのため、時としてSNSから流れてくるフェイクニュースに振り回される危険がある。もし、多くのユーザーがそのようなフェイクニュースに振り回されれば、社会的マイノリティの迫害など深刻な社会不安が引き起こされる可能性もありうる。

 このような問題を解消するため、SNS会社は、たとえ多額の費用がかかるとしても、フェイクニュースが広範囲に共有される前に検知してすぐに削除する取組みが求められる。一方、ユーザーは、SNSから流れてきた情報を安易に他のユーザーへ共有せず、必ず事前にその情報の信憑性をきちんと調べるとともに日頃からフェイクニュースに振り回されないよう注意することが求められるだろう。     (399字)

 

 みなさん、どうでしたでしょうか。今回は要約問題が難しかったかもしれません。ただし、日頃から勉強を通じて知識を習得するとともに、正しい回答方法に基づき小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第12回 人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか(埼玉大学の小論文過去問)

 今回は2021年の埼玉大学教育学部前期の小論文をやっていきます。宗教に関する問題なので日本史や世界史の勉強をしている学生は是非とも読んでみてください。

 

設問

 宗教は人類社会に様々な影響を与えてきた。人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか、社会科(地理歴史科、公民科を含む)で学んだことと関連づけて、具体的な事例を挙げて1200字以内で述べなさい。なお、事例として挙げる事柄は、過去のことでも現在のことでもよく、また日本国内のことでも海外のことでもよい。

 

 それではまず設問の指示を以下の通り整理しましょう。小論文では設問の指示をきちんと踏まえることが最重要です。設問をしっかりと読み込む習慣をつけましょう。

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 まず、最初の指示として、人類にとって宗教とはいかなるものであると考えるか述べてください。そして、自分の考えを述べる際には日本史、世界史、地理、公民などの社会科で学んだことと関連づけて述べる必要があります。なお、事例は過去でも現在でも国内でも海外でも問題ありません。最後に文字制限が1200字以内なので9割(1080字)以上、10割(1200字)以下で記載することが望ましいです。

 

 それでは、宗教が人類に及ぼす影響や効果について下図のように整理してみましょう。

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 宗教に限らず、ほとんどの事象にはプラスの面とマイナスの面があります。したがって、小論文を書く際には、物事を多面的に考えて述べる習慣を身につけると高得点を取得しやすくなります。

 まず、宗教が人類に及ぼすプラス面としては、特に社会が不安定な時期に人々の不安を和らげる効果があります。皆さんも受験の前に神社へ合格祈願すると思いますが、基本的にはそれと同じです。

 もう一つのプラス面としては、人々の倫理観を高めて地域コミュニティを平和に保つ作用もあります。具体的な例として、キリスト教では「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という教えがあり、多くの米国人はその考えに則り、近所の人々を積極的に支えるとともに、地域ボランティアへ頻繁に参加します。そのような人々の行動を通じて米国の多くの地域は快適に保たれています。

 一方、マイナス面としては、過激な思想を持つ人々が1つの宗教の下に集まり、テロ活動などを行うことで社会の安全を脅かす危険があります。これは1990年代に日本でオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件や現在でも世界各地で起きているイスラム過激派による爆弾テロなどが挙げられます。

 もう一つのマイナス面としては、異なる宗教や宗派を信じる集団間で争いが起きやすくなる効果が挙げられます。例えばインドとパキスタンは度々領土紛争を起こしてきましたが、その理由の1つとして宗教間の対立が挙げられます(インドはヒンドゥー教パキスタンイスラム教が主流)。また、中央アフリカではキリスト教信者とイスラム教信者が一緒に住んでいる国が数多く存在しますが、それらの地域では信者間での大規模な内紛が度々発生しています。

 

 それでは、小論文を書く材料は揃いましたので、実際に書く前に、今回の小論文を書く際のポイント(下図参照)を確認しておきましょう。

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 今回は、最初の段落で宗教は人類に対してプラスに働く面とマイナスに働く面があることを簡潔に述べるといいでしょう。その後、プラスに働く面とその具体例、マイナスに働く面とその具体例の順序で書くとわかりやすいと思います。なお、文字数は1080字以上1200字以内に上手く収めましょう。

 それでは合格答案です。

 

合格答案

 私は、宗教は人類に対してプラスに働く面ととマイナスに働く面の両面を併せ持っていると考える。

 まず、プラスに働く面として、宗教は特に社会が不安定な時期に人々の不安を和らげて安心させる効果がある。鎌倉時代初期、貴族による支配体制が崩壊し、代わりに武士による支配体制が進む中、多くの人々が先の見えない状況に大きな不安を感じていた。そのような状況において、善人でも悪人でも念仏さえ唱えていれば浄土に行けると説く浄土真宗は多くの人々の不安を解消させることを通じて、急速な勢いで日本中に広まった。このように宗教とは人々の精神を安らかにさせる効果がある。

 更に、プラスに働く面として、人々の倫理観を高め、地域コミュニティを快適に保つ効果もある。キリスト教には「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という教えがある。米国に住む多くのキリスト教信者はその教えに従い、近所の人々を積極的に支援する。例えば、米国では、近所の人が親が外出している間、子供を代わりに見てあげることや、1人で満足に動けない高齢者を車で病院まで送ってあげることがごくごく当たり前に行われている。更に米国人は地域のボランティア活動への参加や貧しい人への寄付を積極的に行う。このように宗教は人々の支え合い精神を育み、地域コミュニティを快適なものに保つ効果がある。

 しかしながら、時に宗教は人類に対してマイナスの影響も及ぼす。例えば、過激な思想を持つ人々が一つの宗教の下に集まってテロ活動を起こし、社会を不安定にさせることがしばしば起きる。1990年代、日本ではオウム真理教が東京の地下鉄に猛毒のサリンを撒き、多くの人々の命を奪った。海外でも、イスラム教のテロ組織が人々が多く集まる場所で自爆テロを行い、多くの命を奪う事件がいまだに発生している。このように宗教は時として一部の人々を暴走させる副作用を併せ持つ。

 更に、マイナス面として、異なる宗教や宗派を信じ合う集団間での対立を招くことが挙げられる。具体例として、中世、ヨーロッパではキリスト教の聖地エルサレムを奪還するという大義のもと、多くのキリスト教信者が中東へ遠征し、現地のイスラム教信者を殺害した。また、ヨーロッパ内においてもキリスト教カトリック支持者とプロテスタント支持者が対立してユグノー戦争を引き起こした。また、現在においても、インドとパキスタンカシミール地方を巡り長年、対立を続けているが、その根底としてインドでは主にヒンドゥー教パキスタンでは主にイスラム教が信じられており、宗教間の対立があると言われている。更に、中央アフリカではキリスト教信者とイスラム教信者が共存して住む国家が多数存在しているが、それらの地域で度々、キリスト教信者とイスラム教信者間の紛争が発生している。このように、宗教は思想の対立を原因として人々の間で争いを引き起こす副作用がある。

 以上のように、宗教とは人類に対してプラスに働く面とマイナスに働く面が存在する。そのため、人類はその両方の面を理解した上で宗教と付き合っていくことが重要である。 (1192文字)

 

 みなさん、どうでしたでしょうか。今回は宗教に対する一般教養がないと、なかなか書くのが難しかったと思います。ただし、日頃から勉強を通じて知識を習得するとともに、正しい回答方法に基づき小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第11回 地球環境問題の解決に向けてどのようにしていったらよいか(京都教育大学の小論文過去問)

 今回は2021年の京都教育大学教育学後期の小論文をやっていきます。地球環境問題は入試でよく出題されるテーマですので、受験生はぜひ読んでいってください。

 

設問

 地球温暖化をはじめとする地球環境問題の解決のためには国際的な協力の取り組みが必要といわれているが、国連が中心となって開催する地球環境に関する国際会議においては先進国と発展途上国の主張の相違から議論が進まないこともある。先進国、発展途上国それぞれの主張を簡潔にまとめた上で、地球環境問題の解決に向けてどのようにしていったらよいか、600字以内であなたの考えを述べなさい。

 

 それではまず設問の指示を以下の通り整理しましょう。小論文では設問の指示をきちんと踏まえることが最重要です。設問をしっかりと読み込む習慣をつけましょう。

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 まず、地球環境問題に対する先進国、発展途上国それぞれの主張を簡潔にまとめる必要があります。字数としては大体100字程度でまとめればいいと思います。その上で、地球環境問題の解決に向けてどのようにしていけばいいのか述べる必要があります。つまり解決策を示さなければなりません。最後に字数制限が600字以内なので540字〜600字の範囲で書くようにしましょう。

 

 それでは最初に先進国と発展途上国の地球環境問題に対する主張を下図のように整理してみましょう。

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 まず、先進国の主張は「地球環境問題は先進国と発展途上国が一丸となって対応する必要がある。」という内容です。これは正論ですよね。いくら先進国が環境対策をしても、発展途上国が環境汚染を続けていたら地球の環境問題は解決しません。

 一方、発展途上国の主張としては「先進国はこれまで地球環境よりも自国の経済発展を優先して豊かになった。発展途上国だって、今は経済発展を優先して早く豊かになりたい。」というものがあります。この気持ちはわかりますよね。これまで先進国は自分が豊かになることを最優先してきたくせに、自分が十分に豊かになった後に発展途上国に対して、豊かさの追求よりも地球環境への対応を優先しろと言っても発展途上国は素直には受け入れられないでしょう。

 もう一つの発展途上国の主張としては「発展途上国は先進国と違って、地球環境問題を解決するための省エネ技術や賃金を持っていない。」という点が挙げられます。彼らも自国の環境汚染をなんとか改善したいとの思いはあるものの、そのための技術や資金がなくて困っているのです。

 

 今回の小論文では、上で挙げた発展途上国の主張がそのまま地球環境問題の課題となります。それではこれらの課題に対する解決策を下図のように整理してみましょう。課題と解決策を明確にできたならば、小論文を書く下準備はバッチリです。

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 まず、発展途上国は地球環境問題よりも自国の経済発展を優先したいと考えていることに対する解決策としては、例えば二酸化炭素の排出量の削減目標などについて、先進国を高めに、発展途上国を低めに設定することが挙げられます。このような差がついていれば、発展途上国も受け入れやすくなるでしょう。次に、国連が中心となって地球環境への対策を世界に訴えることも効果があるでしょう。国際世論が地球環境対策が重要と考えるようになれば、発展途上国も自国の経済発展のみを考えるのが難しくなります。実際、国連は、SDGsSustainable Development Goals)と呼ばれる2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標を策定しました。現在、各国の政府や企業はSDGsに則り、地球環境にやさしい取り組みを積極的に行うようになってきています。

 もう一つの課題としては、発展途上国は地球環境問題を解決するための省エネ技術や資金を持っていない点が挙げられます。これに対しては、先進国が発展途上国に対して技術や資金を積極的に支援することが解決策となるでしょう。

 

 小論文を書く際のポイントは下図の通りです。

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 今回は、最初の段落で先進国と発展途上国の主張を100字程度で簡潔に述べてください。次に上で述べた2つの課題とそれに対する解決策を重点的に述べましょう。なお、解決策を述べる際には具体的な事例や数値に言及してください。そうすると提示した解決策に強い説得力が出てきます。最後に文章全体を540〜600字でまとめるようにしましょう。合格答案は以下の通りです。

 

合格答案

 地球環境問題に対して、先進国は「各国が協力して積極的に対策すべき。」と主張するだろう。一方、発展途上国は「今は地球環境よりも経済成長を優先したい。更には地球環境対策のために必要な技術や資金を有しておらず、対策を取りたくても取れない。」と主張すると思われる。

 地球環境問題への解決に向けて、まずは発展途上国に配慮した目標設定が必要である。例えば、二酸化炭素の排出削減量について、先進国は高めに、発展途上国は低めに設定すれば、発展途上国の協力を受けられやすくなるだろう。また、国連がSDGsなどを通じて環境問題対策の必要性を世界に訴えて、発展途上国も環境対策に取り組まざるを得ないような国際世論を形成することも効果的である。もし、環境に配慮しないと商品の輸出や投資の受け入れに支障が出ることとなれば、発展途上国も自国の経済的利益から環境対策を必死に取り組むことになるであろう。

 更には、先進国から発展途上国に対して、地球環境対策に有効な技術支援や資金提供を積極的に行うことも重要である。例えば、日本は太陽光パネル風力発電による発電ノウハウを有しており、そのような設備や運行ノウハウを発展途上国へ積極的に提供するとともに、必要な資金についても支援することが発展途上国ひいては地球全体の環境問題への解決へつながっていくであろう。

 以上のように、地球環境問題を解決するためには、先進国が発展途上国へ配慮や支援を行うとともに、地球環境の重要性に対する国際世論を形成することが肝要であろう。(598文字)

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第10回 経済産業省報告書「不安な個人、立ちすくむ国家 〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」に対する自分の意見を提示(九州大学の小論文過去問)

 今回は2018年九州大学共創学部前期の小論文をやっていきます。これからの生き方について考えさせられるとても面白い問題なので、是非読んでみてください。

 

設問

 資料のスライド(1)~(8)は、経済産業省次官・若手プロジェクトの報告書「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(2017年5月)からの抜粋である。これを読んで、以下の問いに答えなさい。

 

問1

 このプロジェクトチームは、日本社会のあり方及びそれに対する日本政府の関与の仕方に問題意識を持っている。「昭和」の時代と比較した時に、チームは現在、どのような問題が深まっていると認識しているのか。スライド全体を読み取り、彼らの問題意識を推測し、それをあなたの言葉でまとめなさい。論述を補強するため、文章と合わせて概念図や表を付記してもよい。

 

問2

 ひとりひとりの構成員がより充実した生活を送ることができ、また持続的でもある社会を実現するために、あなた自身はどのような貢献ができるのか。自分の知識や経験を踏まえながら、自由かつ論理的に議論を展開しなさい。論述を補強するため、スライドのデータを用いたり、文章と合わせて概念図や表を付記してもよい。

 

(設問1資料)

スライド(1)

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スライド(2)

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スライド(3)

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スライド(4)

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スライド(5)

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スライド(6)

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スライド(7):各国の若者に対する意識調査

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スライド(8)

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 それでは、まず問1の指示を以下の通り整理しましょう。

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 まず、最初に、チームは現在、どのような問題が深まっていると認識しているのか、スライド全体を読み取り、彼らの問題意識を推測する必要があります。その上で推測した内容を自分の言葉でまとめることが求められています。なお、論述を補強するため、文章と合わせて概念図や表を描いてもいいと言われています。

 

 それではスライド(1)〜(9)について読み取れる内容を確認していきます。なお、小論文でグラフが出てきた場合、必ず全てのグラフに言及する必要があります。1点でも言及しないものがあると減点になりますのでこの点は注意してください。

 

 まず、スライド(1)についてです。

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  このスライドからは「社会の変化が早すぎて人や国家がそれにそれに追いついていない状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(2)です。

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 このスライドからは「昭和で一般的であった生き方が崩れ、人々のライフスタイルが多様化している状況」が読み取れます。

 

 次はスライド(3)です。

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 このスライドからは「高所得者から低所得者所得の再分配がされているものの、高齢者世帯への分配が強く、母子世帯などに十分な分配がされていない状況」が読み取れます。

 

 次はスライド(4)です。

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 このスライドからは「親の年収と子供の学歴及び労働形態には強い相関関係があり、高所得者の子供は高所得者低所得者の子供は低所得者といった格差の固定化が起きている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(5)です。

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 このスライドからは「日本では健康寿命が伸びており、高齢者でも昔に比べて健康に過ごせている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(6)です。

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 このスライドからは「多くの高齢者が働く意欲を持っている状況」が読み取れます。

 

 次にスライド(7)の若者に対する意識調査結果です。

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 このスライドからは「日本の若者は他国に比べて国への貢献に対して強い関心を示しているものの、国の政策決定に関与できていないと考える傾向にある」ことがわかります。

 

 次にスライド(8)です。

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 このスライドからは「日本人は経済的に豊かになっているが生活への満足度は上がっていない状況」がわかります。

 

 9つのグラフから読み取れる内容を順序を変えて整理すると以下の通りになります。

 

○昭和で一般的であった生き方が崩れ、人々のライフスタイルが多様化している(2)

○社会の変化が早すぎて人や国家がそれにそれに追いついていない(1)

○格差の固定化が起きている(4)

所得の再分配は高齢者世帯への分配が強く、母子世帯などに十分な分配がされていない(3)

○日本では健康寿命が伸びており、高齢者でも昔に比べて健康に過ごせている(5)

○多くの高齢者が働く意欲を持っている(6)

○日本の若者は国への貢献に対して強い関心を示しているものの、国の政策決定に関与できていないと考える傾向にある(7)

○日本人は経済的に豊かになっているが生活への満足度は上がっていない状況にある(8)

 

 上記が経産省若手の問題意識です。これを自分の言葉でわかりやすくつなげてまとめると問1の回答は以下の通りとなります。

 

問1の合格答案

 日本では昭和時代に当たり前であった終身雇用、専業主婦、定年退職などがもはや一般的ではなくなり、ライフスタイルの多様化が進んでいる。しなしながら、このような社会の変化に国家の制度が追いついていない。例えば、格差の固定化が進んでいるにもかかわらず、所得の低い母子世帯などに十分な所得の再分配がなされていない。一方で、日本の高齢者は健康寿命が伸びており、更には働く意欲を持っているにもかかわらず、彼らに大きく所得を再分配することで彼らの勤労意欲を阻害している。若者については、国に貢献したいと考えているものの、国の政策決定に関与ができていないと考えている。このような状況により、日本は経済的には豊かになっているにもかかわらず、幸福度が高まっていない。

 

 次に問2についてやっていきましょう。まずは問2の指示を以下の通り整理しましょう。

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 回答の書き方としては、まず、①ひとりひとりの構成員がより充実した生活を送ることができ、また持続的でもある社会について簡単に述べてください。その後、②その社会を実現するために自分が貢献できることを重点的に書く必要があります。なお、②を書く際に自分の知識や経験に言及し、必要があれば概念図や表を描くようにしてください。それでは問2の合格答案は以下の通りです。

 

問2の合格答案

 これからの日本社会では年齢や性別などに限らず勤労意識の高い人がいつまでも意欲的に生き生きと働き続けることができ、若者が社会へ積極的に貢献していくことが理想的である。更には、母子家庭などの本当に生活が苦しい人へ所得の再分配が適切になされるとともに、地域の人々がそのような人を自発的に支援することを通じて、格差の固定化を防ぎ、人々がお互いに高い幸福感を持って生きていける社会を実現していくべきである。

 このような社会を実現するにあたり、私は自分の住む地域へのゴミ拾いのボランティア活動を今後も積極的に続けていきたいと考えている。若者による日本社会への貢献は何も選挙への投票を通じてのみならず、地域への積極的な支援を通じても達成することはできる。私は高校生の頃、地元の街のゴミを拾うボランティア活動に度々参加した。自分がゴミを拾うことにより街がきれいになり、地元の人たちに感謝されることに大きな喜びを感じたことを今でも鮮明に覚えている。自分を含めて多くの若者が自分の住む街に対して積極的に貢献活動を行うようになれば、地元の人々の幸福度が高まり、更には若者も自分たちが社会へ貢献できているという実感を持てるだろう。

 更に、私は大学入学後にこれまでの勉強経験を生かして地域の母子家庭への勉強支援を無償で行いたい。そして、卒業後には週末の募金活動への参加や定期的な募金を通じて母子家庭への支援を続けていきたいと考えている。これからは常に自分が地域にどのような貢献ができるかを考えて、必要だと思う活動を継続的に実施していきたい。

 昭和時代は政府や会社が人々をサポートする役割を果たしており、人々は自分の勉強や仕事や家庭のみに専念してきた。しかしながら、これからの時代には政府、会社のみならず、人々がより自発的にお互いを支え合っていくことが必要であろう。まさに、各地域において、多くの人々がそのような利他的な行動を積極的に取るようになって初めて経済産業省の若手プロジェクトが考えるような理想的な社会が完全に実現されると思われる。

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第9回 「駅構内のエスカレーターでの歩行に罰金を科すべきか否かについて」(新潟大学の小論文過去問)

 今回は2020年の新潟大学法学部後期の小論文についてやっていきます。

 

 小論文の問題は次のとおりです。

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 それではまず初めに設問の指示について詳細に確認しましょう。設問の指示は以下の図の通り3点です。まず1点目として、駅構内のエスカレーターの歩行を禁止すべきか否かについて自分の意見を述べることが求められてます。次に2点目として、歩行を禁止すべきと考える場合、科料を科すべきか否かについて自分の意見を述べることが求められています。最後に1000字以内で記載することが求められているので1000字の9割である900文字以上1000字以内で書くことが望ましいです。小論文では設問の内容をきちんと踏まえて回答しないと大幅減点になってしまいます。みなさん、気をつけましょう。

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 それでは、想定される意見を整理しましょう。今回の問題では想定される意見は3パターンあります。①駅構内のエスカレーターの歩行を禁止すべき且つ禁止制度に科料を科すべき、②歩行を禁止すべき且つ禁止制度に科料を科すべきではない、③歩行を禁止すべきではないの3パターンです。それでは以下の図のように、それぞれの意見について、そう考える理由を書き出してみましょう。

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 まず、①については、エスカレーターの歩行により重大な転落事故などが発生する危険があるから、それを禁止すべき。また、科料を科すことで禁止行為に対して強い抑止力を持たせられることができることが理由として挙げられます。

 

 次に、②については、①と同様に事故を防ぐために禁止すべき。一方、科料なしの制度の方が国会や地方議会で揉める可能性が低く、早急な制度整備が期待できる。もしも、科料なしの制度で効果が見られない場合、科料ありで制度を改定すれば良いという点が理由として挙げられると思います。
 

 最後に、③については、仕事などで急いで移動したい人もいるので、個々人の事情を尊重すべきという理由が挙げられるかもしれません。

 

 整理した結果、②が一番充実した内容が書けそうなので、今回は②の内容で小論文を書いていきます。 

 

 なお、小論文を書くにあたっての留意点は以下の通りです。

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 まず、文章は自分の意見、理由、理由を支持する根拠の順序で書いてください。次に根拠は主観的な感情ではなく、客観的な効果や実際の事例、数値などを示すようにしてください。今回は900字以上も書く必要があるため、字数を稼ぐ上でも、想定される反対意見を示し、それを反論するといいでしょう。最後に、設問では科料を科すべきか否かについて重点的に書くことを示唆しているので、このパートにより多くの字数を割くように心がけましょう。

 

 それでは、合格答案は以下の通りです。

 

合格答案

 私は、駅構内のエスカレーターの歩行を禁止すべきと考える。なぜならば、エスカレーターの歩行は重大な転落事故を引き起こす可能性があり、とても危険だからかである。実際にエスカレーターでの歩行が原因での転落事故は度々発生しており、死亡事故につながる事例も多数存在する。私が小学生の頃、近所に住んでいた女性もエスカレーターで早歩きで降りてくる人と接触することで転落してしまい、身体を複数箇所骨折し、全治半年の大怪我を負った。このような事件を防ぎ、人々の安全を守るためにはエスカレーターでの歩行は早急に禁止すべきである。

 確かに、仕事などの事情で駅構内を迅速に移動したい人は多いと思われる。ただし、今回の場合においては、そのような個人の都合よりも人々の安全が重視される必要がある。まずは、駅構内で人々が危険なく安全に移動できる環境を達成することを目指すべきである。

 一方で、私は駅構内のエスカレーターの歩行禁止について、まずは科料なしの法律もしくは条例を整備すべきであると考える。その理由としては制度を早急に整備するためである。法律や条例は国会や地方議会で議員によって議論され、最終的には多数決で彼らや彼女らの過半数の賛同を得る必要がある。議員は様々な考えを持っており、当然ながら科料を求めることに否定的な考えを持つ議員も存在するであろう。もし、最初から科料を求める内容でエスカレーターの歩行を禁止する制度内容を議会に提案した場合、一部の議員から反対意見が出されて議会が紛糾する可能性がある。更には多数決の結果、反対多数で提案が否決されてしまう可能性も十分に考えられるだろう。そのため、まずは科料なしでエスカレーターの歩行を禁止する制度について議会での可決を目指すべきである。科料なしの提案内容ならば、科料ありの内容に比べて、より迅速且つ確実に議会で可決される可能性が高い。

 もしも、科料なしの制度で十分な効果が得られなかった場合には、科料を求める内容で制度の改定を目指せばいいのである。実際に科料なしでは十分な効果が得られなかったという事実があれば、議会においても、科料ありの制度内容について反対議員を説得しやすくなり、最初から科料ありの制度内容を議会に提案するよりも議会で可決されやすくなるであろう。

 以上の理由から、私は駅構内のエスカレーターの歩行を禁止する制度を作るべきだが、迅速性及び確実性の観点からまずは科料なしの制度整備を目指すべきであると考える。

(973文字)

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第8回 「主体性」と「協同性」は相反するか調和するか(筑波大学の小論文過去問)

 今回は2021年の筑波大学人間学群の小論文についてやっていきます。

 

 小論文の問題は次のとおりです。

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 それではまず初めに設問の内容について詳細に確認しましょう。まず1点目として、「主体性」と「協同性」は相反するものか調和するものか自分の意見を述べることが求められてます。次に2点目として、これまでの自身の経験を盛り込むことが求められています。最後に800字以内で記載することが求められているので800字の9割である720文字以上800字以内で書くことが望ましいです。小論文では設問の内容をきちんと踏まえて回答しないと大幅減点になってしまいます。みなさん、気をつけましょう。

 

 それでは、「主体性」と「協同性」は相反するものか、それとも調和するものかについてそれぞれ、以下のように理由と自分の体験談を書き出してみましょう。

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 まず相反するという意見については、その理由として「考えの異なる人々が主体的に自由に動くと集団生活が成り立たなくなる。そのため、ルールなどを通じて個人の主体性を抑えて共同性を高める必要がある。」という点が挙げられると思います。自分の経験としては、「小学生の頃、子供たちが好き勝手に行動しないよう先生が子供にルールを教えて管理していた。その結果、子供たちの主体性は抑えられたものの代わりに協同性が育まれた。」というものがありました。

 

 一方、調和するという意見については、その理由として、「得意分野が異なる人々が主体的に行動することでお互いの強みを生かし、弱みをカバーすることができる。その結果、組織として大きな成果を挙げることができる。」という点が挙げられると思います。自分の経験としては、「中学時代に所属していたバスケット部では各ポジションの選手が主体的にトレーニングして自分の強みを徹底して伸ばした。その結果、個人のスキルが大幅に上昇し、県大会でベスト4に入った。」というものがありました。

 

 今回は「主体性」と「協同性」は調和すると言う意見に従って小論文を書いていきましょう。実際のところ、多様性が求められるこれからの日本においては「主体性」と「協同性」の調和が必要になってきますのでこちらのスタンスの方が小論文は書きやすいと思います。

 

 合格答案は以下の通りです。

 

合格答案

 私は主体性と協同性は調和すると考える。なぜなら、得意分野や能力が異なる個々人が主体的に各々の強みを最大化する行動をとることによって、集団として、より高い成果を出せる事例が数多く存在するからである。そもそも、協同性というのは、何も全ての人が全く同じ行動をとることを指している訳ではない。個々人が各自の強みを出し合う形での協同性も存在するのである。この場合、個々人が主体的に行動することと、協同してチームとして高い成果を出すことはまさに両立するのである。

 私は中学生時代、バスケットボール部に所属していた。その当時の監督は「各自が自分の強みを最大化すべく練習しなさい。そうやって個々人のスキルが高まれば高まるほどチームとして強くなるんだ。」と言い、個々人が自身の体格や得意分野を踏まえて、主体的に練習することを奨励した。私の場合、身長が低いいもののスピードが早かったため、特にドリブルやパスの練習を集中的に実施し、一方、私の友人は身長が高く、体格がよかったため、ゴール下でのシュートとリバウンドの練習を徹底的に行った。このように各自が自分の強みを生かすべく主体的に練習を繰り返した結果、私はチームの中で誰よりも素早くドリブルして正確なパスが出せるようになり、私の友人は誰よりもゴール下でリバウンドを取れるとともに、ゴール下で確実にシュートを決められるようになった。その結果、県大会では並いる強豪を打ち破り、最終的にはベスト4に入ることができた。

 この経験を通じて、私は個々人が自分の強みを生かすために主体的に行動した結果、お互いの強みを生かし合う形でチームとして高い成果を出せることを実感することができた。この部活動の経験こそ、主体性と協同性は相反することなく調和するができることの事例である。

 以上から、私は主体性と協同性は相反するものではなく、調和することができると考えている。これから日本人は主体的に行動すると共に、互いに異なる強みを出し合う形で協同していくべきである。

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。これからも小論文のトレーニングを一緒に頑張りましょう。

第7回 女性の社会進出について(意見提示型の小論文問題)

 今回は女性の社会進出に関する小論文の問題です。早速、問題をやっていきましょう。

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 それでは資料1から順番に見ていきましょう。

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 資料1は女性の年齢階級別労働力率の推移です。つまり各年齢ごとの働いている女性の割合を表しています。

 

 グラフを見るときには必ず全体のトレンドと特徴的なポイントの両方をチェックしましょう。今回の折れ線グラフでは、全体のトレンドとして各年代ともM字カーブを描いており、大体20代後半で多くの女性が働くのを辞めて、30代後半頃に再度働き始めることがわかります。

 

 一方、特徴的なポイントとしては、20代後半あたりの各年代の違いが挙げられます。昭和から平成そして令和になるにつれて20代で離職する女性の割合が低下傾向にあります。

 

 以上をまとめると、「1980年には20代後半で離職する女性が多かったが、2020年には若い時期での離職が減り、50代まで高い就業率を維持するようになった。」と言えるでしょう。

 

 次に資料2です。

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 資料2は女性が職業を持つことに対する意識の変化です。このグラフからは全体トレンドとして男女共に子供ができてもずっと働く方がいいと考える人が年々増加していることがわかります。

 

 最後に資料3です。このグラフは年齢別の非正規労働者割合の推移です。

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 このグラフは赤い折れ線グラフに特徴的なポイントがあります。それは右側の男性の非正規労働者の割合は令和2年で20%程度に過ぎないですが、同時期の女性の割合は50%程度にのぼるという点です。

 

 以上のグラフから読み取れる内容をまとめると次の通りになります。

 

問1の回答

 1980年には20代で離職する女性が多かったものの、2020年には男女共に50代まで高い就業率を維持するようになっている。また、男女共に「女性は子供を産んでも働き続けた方がいい」と考える割合が年々増加傾向にある。しかし、非正規社員の割合が男性では20%程度に過ぎないが女性は50%に達しており、男女間の労働状況に大きな格差が生じている。

 

 なお、資料から読み取れる内容を書く際には、必ず全ての資料に言及してください。出題者は全ての資料に対して何らかの意図を持っています。そのため、言及しない資料があるとそれだけで減点となってしまいます。みなさん、この点について注意してください。

 

 それでは問2をやっていきましょう。

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 問1で資料から読み取れる内容をまとめた際、女性の非正規労働の比率が高く男女間で労働状況の格差が課題としてあることがわかりました。小論文では課題がある際には必ずその解決策を示す必要があります。なのでここでは解決策について書くことになります。

 

 なお、解決策を書く際には、その解決策がどのように効果を発揮するかについて具体的に説明する必要があります。

 

 最後に、その解決策が有効である証拠として過去や他国の事例もしくは客観的な数値を根拠として示すことが望ましいです。

 

 それでは合格答案を見ていきましょう。

 

問2の回答

 現在、女性が結婚や出産をしても途中で仕事を辞めずに働き続ける傾向が強まっている。しかし、女性の非正規割合は男性に比べて非常に高く、この点について男女間の労働状況の格差を早急に是正する必要がある。

 労働状況の格差是正の対策として日本政府は女性のみならず、男性に対して育児休暇の取得を積極的に促す政策を作るべきである。もし、男性も育児休暇を積極的に取得するようになれば、育児に対する女性の負担が大幅に軽減され、女性が育児と両立するために、非正規として短時間労働を選ばなければならない状況も緩和されるだろう。

 男性の育児への関与を高めるにあたり、北欧のスウェーデンの事例が参考になるであろう。スウェーデンでは父親と母親がそれぞれ8ヶ月育児休暇を取得できる制度になっており、父親が育児休暇を取得しないとせっかく与えられた休暇が消滅することとなる。更に父親が育児休暇を取得すると税制優遇が受けられる。このような制度によりスウェーデンでは男性の育児休暇取得率が非常に高く、両親で育児負担を共有するのが一般的になっている。日本政府はスウェーデンの事例を参考にして、父親と母親に与えられる育児休暇を厳密に分けるとともに、日本企業に対して男性社員の育児休暇取得の義務目標を課すことで男性の育児への関与を積極的に促すべきである。そうすれば、男女間の労働状況の格差が是正されていくであろう。

 

 この合格答案では、男女間の労働状況の格差是正として男性の育児休暇取得を促す政策を日本政府が作ることを提案すると共に、スウェーデンの先進事例を根拠として言及しています。

 

 みなさん、どうでしたでしょうか?正しい回答方法に基づき日頃から小論文を書くトレーニングをしていれば、確実に試験でも合格答案を書けるようになります。

 

 最後になりますが、このブログの内容は以下のYoutubeでも解説しています。もしよければご視聴ください。また、Youtubeにアップしている動画スライドについても参考までに添付しておきます。Twitterもやっているのでよろしければフォローお願いします()。

 

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 これからも皆様の小論文スキルが向上することを目指して、これからも情報発信を続けますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

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